広おさの振動

原文

相賀(おうか)赤松山の東側に当る付近で、通称「広おさ」という。

この山地は、どうしたわけか昔から大風が吹いたり、あるいは大雨が降ると必ず不思議にも震動する。

それはちょうど地震と同じようであったので、付近の村人たちは恐れおののき、「ここの地底には何か魔物が潜んでいて、大風が吹いたり大雨が降れば怒り出すに間違いない。」と、風雨が強くなると無気味な震動に恐れて、なんとかして魔物を地下から追いはらいたいと考えていた。

けれども人知も科学も進まない往時にあっては、どうすることもできない。

穏やかな日和になれば何も感じないので、いつしか馴れてしまい、「これは確かに地中のどこかに、大きな螺(ほらがい)が棲んでいて、風雨になるとそれが動き出すのに間違いない。」と決めこみ、風雨が強くなって、「今に又動き出すぞ」と安心するようになった。

このことは駿国雑誌に、

相賀村にあり 里人云 当村ヒロオサと云う小地名あり。此辺大風雨の時は必らず土地震動す。疑らくは螺などの地中に潜めるにや。

と、書載されている。

紅林時次郎『島田・史話と伝説 百話』
(島田市立図書館)より