みょうそ淵の主

原文

落合の集落は、入山川と西沢川が落ち合う稲子川の上流です。その落合の橋から、西沢川を百五十メートルほども遡った所に、みょうそ淵といわれる岩と岩の間を流れる沢が深い淵となった所があります。

そこには、昔から棒杭のような太いウナギが棲んでいるといわれています。村の人々は、「みょうそ淵のウナギは淵の主だ。」といって、だれの捕ろうとする人はありませんでした。

みょうそ淵のウナギは、普段は淵の奥深くに棲んでいて、決して姿を現しませんが、日照りが続き西沢川の水も涸れ、村中が水不足になりそうなときには、村人に姿を見せるということです。村人の誰かが、「みょうそ淵のウナギを見た。」というと、その年は日照りが続き旱魃になるというので、村中あげてみょうそ淵で雨乞いをしました。すると、きっと雨が降って旱魃を防げたと言うことです。

渡辺正二『富士宮の昔話と伝説』
(「富士宮の昔話と伝説」制作委員会)より