昔、伊豆山に若い大工がいて、初島へ仕事に行った。すると島の美しい娘に妻にしてくれと慕われた。男は困って、伊豆山まで百晩通い続けたら、といって別れた。その夜から、初島の女は雨が降っても風が吹いてもやって来るようになった。
毎夜渡し舟もないのに、伊豆山裏の灯明を目当てに泳いで通ってくるのだ。女の伊豆山通いは六十日も七十日も続き、男は気味が悪くなった。そこで、九十九日目の夜、女が目当てにしている灯明を消してしまった。果たして、その夜女は来なかった。
翌朝海辺に出掛けてみると、初島の女が打ち上げられて死んでいた。体中に鱗が生えた恐ろしい蛇体であったという。(『甲斐昔話集』)