竜になった妻

静岡県浜松市天竜区

昔、中部に三人の子がある夫婦がいたが、妻が病気になってしまった。薬を求め与えても、薬では治らないから、鳴瀬の三の淵の水を汲んで来てくれ、という。夫が言われるままに水を汲んできて飲ませると、妻はおいしそうに飲み休んだ。

ところがその夜、妻は大蛇になって天竜川を下り、鳴瀬に来て、夜の明けないうちに帰るのだった。夫は朝になると妻の草履が濡れているので不思議に思い訊ねるが、妻は便所で濡らしたのだ、という。しかし、病気が治ると、妻は川に洗濯に行くといって、そのままたらいに乗り、鳴瀬に下ってしまい、竜になったという。

静岡県女子師範学校郷土研究会編
『新版 静岡県伝説昔話集(上巻)』(羽衣出版)より要約

釜無川や天竜川の水系には、盥に乗って(多く、なぜか満面の笑みを浮かべて)大水の濁流を下って竜蛇になってしまう女の話があり、この鳴瀬の淵にもそういった話が複数ある。