深見の池の底には今でも大木が折り重なって沈んでいる。これは、池ができる前ここが大きな森であった証拠だそうな。その頃、森の陰に一軒家があり、嫁と姑が糸車を繰っていた。
ある晩のこと、嫁がちょうど巻き上げた紡錘を姑に渡す際、自在釣にかかって湯気を立てていた鍋弦の下をくぐらせた。すると俄かに鍋が大声で唸りだし、同時に紡錘が鍋弦に喰い付いて取れなくなってしまった。二人はびっくりして、その鍋を裏手の森へ投げ捨てた。
夜が明けると、いつも障子に映る森の影がなかった。二人が怪しみ窓を開くと、千年の森が一夜のうちに消え、そこには大きな池ができているのだった。この話を聞いた村人たちは怖れ早速池の傍らに祠を建て祀った。それからは決して紡錘は鍋弦の下をくぐらせるなと言い伝えている。
同資料上、深見の池に関する複数の話が皆「深見の池」の題なので、見分けるために題を変えた。
寛文の地震による出現を機に、各地の池のヌシがやってきた、やってきてできたと語られる深見の池だが(「大蛇が池」など)、「やってきた」話が当地で語られるわけもなく、こうした自前の池出現の伝説もある。
しかし、不思議な話で、紡錘を鍋弦の下をくぐらせることで、鍋が池を生むというのは相当にいろいろな謎解きをしないと説明できない。