濃が池・一

長野県上伊那郡宮田村

宮田の里におのうという娘があった。夜になると美しい若い男が通って来、やがてふたりは親しい仲となった。ところが、しばらくしてその男がやって来なくなってしまい、おのうは恋しさの余り、何かに引かれるように家を出、彷徨した。

おのうは桜の枝を折って杖につき、歩くうちに駒ケ岳の上の池のほとりまで来てしまった。そして、その水面に恋い焦がれた男の姿を見、嬉しさの余り池に飛び込み帰らぬ人となった。このことから池を「のうが池」と呼ぶようになり、池のほとりには杖だった桜が根付いて今でも花が咲く。

ところで、濃が池のうちに長くうねるように筋立って青ずんで深く見えるところがある。これが池の主の蛇身の姿だといわれており、人々は畏れ慎んできた。祈雨に験のある池でもあり、古くから雨乞いの登山もされてきたという。

『宮田村誌 下巻』より要約