龍殿

長野県北佐久郡立科町

立科町芦田の古町に龍殿(たつどの)と呼ばれる所がある。むかしは芦田川の大きな淵であって、その底は布引山に通じており、お膳や、お椀などの食器を村人に貸してくれたとのことである。村人達が結婚式や葬式などの際に、使いたい数だけを紙に書いてこの淵に流せば、翌日は必らずここにそろえてあった。ある時ひとりの不心得者が、借りた食器を一個破損したのに、詫び書きも書かないでそのまま返して置いたので、それ以後は誰にも貸してくれなくなってしまった。(阿部益良25)

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 北佐久篇』
(佐久教育会)より

現在の芦田川は、古町のあたり、一見用水かと思うほど小さな流れとなっているので、深い淵があったことを想像するのも難しいが、こういう椀貸しの淵があったのだという。布引山というのは小諸の布引観音のことだろう。

椀貸しの筋書き自体も特に目を引くところのあるものではないが、これは一点、その龍殿(たつどの)の名前を覚えておきたい。淵の名で、他の椀貸し淵を竜宮淵ということが多いのと対応するのだろうか。もしかしらた「りゅうどの」であり、「じゅうどの」くらいに訛りはしていなかったか、という見込みがある。