土蔵の中の怪音

原文

立科町桐原区佐藤蓼山氏の祖父金藤氏の代のことである。邸内土蔵の中から人のいびきのような怪しい物音が聞えた。それが一夜や二夜でなく連夜のことであったので、村中に伝わって大評判となった。それで夜になると人びとがこの怪音を聞きに集まった。金藤氏は不思議なこともあるものだなあと、神職を頼んで祈祷をし、神がかりをしてもらった。ところがその声の主は、

「俺は蛇だ。元塩田の某家に住んでいたが、家を取り毀されたのでここへ移って住んだのだ。どうか蛇石として祭って供養して貰いたい。」

といった。そこで金藤氏が、その願いのようにしてやったら怪音はぱったり止んだ。その時から土蔵の中に小祠を建てて蛇を祭り、土蔵は何物も納めずに空けて置いたが、先年家屋改築の必要から神職をお迎えして祭りを行ったうえ、屋敷内の他の場所へ遷座し、今日に至るまで年々お祭りをかかさない。(佐藤蓼山42)

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 北佐久篇』
(佐久教育会)より