蓼科山の頂上に天龍石というのがある。龍神がこの石を住みかにして、雲を呼んで天井に昇ると伝えられている。この石の水滴は流れて諏訪の湖に入り、三河、遠江の間を流れている。天龍川の名はこれに関係をもったものだという。(立科山略伝記)
これは神龍の洞などともいう、甲賀三郎が地中の世界へ落とされた伝説の穴上に蔽うようにある岩のことではないかと思う。そこは水を司る天龍の出入りがあるといい(「甲賀三郎・枝話」)、符合している。
元より諏訪湖は天竜川水系の源を象徴する湖であり、諏訪明神・甲賀三郎とはそこに蟠る竜蛇であるのだが、ここではそれに対応して、さらなる源を八ヶ岳・蓼科山に求めている。三郎の伝説が佐久でよく語られる理由はこのようなところにあるのかもしれない。