かくれ里

原文

軽井沢町離山の南側の斜面の峰近くに、入口の小さな奥深い洞窟がある。かくれ里と呼んでいる。むかし近在の村の人達が、何か品物で不自由をして困るときには、かくれ里へ行ってお願いすれば、次の朝必ず穴の入口にはお願いしたものは何でも揃えてあって、これを借りてくることができた。借りた村びとは決して期日をたがえることなく返して、お礼として赤飯を炊いて穴の入口に供えた。

あるとき、ふもとの村の庄屋が御領主様の宿をすることになり、夜具が足りなくて困ったので、やっぱり例の通りにお願いして立派な夜具を借りてきた。けれどもこの庄屋は慾張りでお礼をしないばかりでなく、夜具までも盗んでしまった。このことがあってからは、誰がお願いしても何も貸してくれなくなり、そればかりでなく入口に立ってお願いするものがあれば、中から恐しい顔をした蝙蝠が飛び出して、驚かして追い払うようになってしまった。(佐藤孝一)

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 北佐久篇』
(佐久教育会)より