蛇石

原文

八千穂村馬越の西方に、長さ九尺(約二七〇センチ)巾七尺(約二一〇センチ)高さ四尺(約一二〇センチ)ばかりの蛇石という石がある。この石のすその方に巾一寸(約三・三センチ)位長さ二尺五六寸(約七八十センチ)位に、鉄の蛇の通ったという跡がある。この石の上には小さな石のほこらがあって、村の人はシービーシさん(蛇石さん)と呼んでいる。

むかしこの部落のある家に病人があって、なかなかなおらなかったので占いにっかけた。ところが、「お前の土地にこういう石(蛇石)がある。これを神に祭らなければ、この病人はなおらぬ。」と言われた。そこで石宮を建て祭ったらその病人はたちまち全快した。

明治の初め頃、このお宮を同じ部落にある神明社へ合祀すると、この一族に病人が沢山出来た。これは蛇石様のたたりだろうというので、元の所へかえしてお祭りをしたらなおった。むかしからこの石へ指さしをしたり踏んだりすると、向うの川(大石川)へ自分が流れるか、または持物が流れるといわれている。またこの石の下には金が埋めてあったというが、いつの頃か海瀬村(佐久町海瀬)のある人が掘り出して持って行ってしまったという。ちょうどそれと同じ頃、畑八村(八千穂村畑八)大石のある人がその石の下に金の埋っているという事を夢に見た、早速行って見たが、海瀬の人に掘られてしまった後だったということだ。(馬越、農、井出伊重郎72)

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 南佐久篇』
(佐久教育会)より