蛇体

原文

むかし南牧村広瀬のある兄弟が八ヶ岳登山をした。帰る途中、大きな岩窟で休んだ。兄がその穴の奥をのぞいて見ると、太い綱が下がっていた。兄はその綱につるさがって降りて行こうとしたら、切れて深い穴の底へ落ちてしまった。弟はそれを見て、びっくりして家へ逃げ帰ってしまった。

兄は気がついてみると、きれいな娘が洗たくをしていたので、帰る道を聞いた。娘はその穴へ落ちてしまえば一生出られない。こうなったらわたしの家で暮らしなさいと言った。兄は仕方なしにその家で暮らすことにして、少女の家へ行ってみると、ひとりのおじいさんがいた。兄が家の中へ入ると、おじいさんも娘も蛇になってしまった。

そののち彼は岩窟を抜け出して自分の家へ帰った。村の子ども達は彼を見ると、恐しがって泣きながら家へ飛び込んでしまった。不思議に思ってきれいな淵へ行ってみると、蛇の姿になった自分の姿が映った。彼は驚いてその淵へ飛び込んでしまったという。(広瀬、農、菊原開作48)

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 南佐久篇』
(佐久教育会)より