馬流の蛇石 長野県南佐久郡小海町 馬流の裏山に蛇石がある。一間半に一間の大きさで、高さ三尺ほど。ちょうど蛇が土の中から頭を出したような形をしている。この石があたたまってポタリポタリとしずくが落ちると雨が降るという。 日照りが続き、雨がほしい時、村の人は蛇石の具合を気にする。昔、岳(八ヶ岳)にすんでいた大蛇が山崩れでここまで押し出されて石になったのだといわれている。 『限定復刻版 佐久口碑伝説集 南佐久篇』(佐久教育会)より要約 穴沢遺跡など縄文時代の遺跡が広がる中にあって特異な弥生時代の遺跡があったというのが蛇石遺跡といい、その近くにこの蛇石があったようだ。現在どうなっているのかはわからない。 雨乞いの手法として神体の石などに水をかける、水につけるというのは、水性の神体にその力を取り戻させる(場合によっては怒らせる)と説明されるが、この馬流の蛇石の話は一石を投じる興味深い内容となっている。 すなわち、そもそもそれが濡れることが雨の予報だった石があったとしたら、それを濡らせば雨が降る、という方向に逆転するのは時間の問題ということだ(要するにそれが予祝である)。この蛇石にはその印象がある。 近く、蛇にちなんだ石と降雨ということでは、佐久市平林のほうに「蛇の枕石」の話があり、その石を枕に寝てる大蛇が起きると雨が降ったという。これは池の中にあった石のようで「お天気石」とは違うだろうが、どこか通じるところがあるようにも思う。 また、降雨祈願の石には「いつも水がたまっている」凹みを持つ、馬蹄石とか硯石とか、信州だと剣ずり石とかいうものがあるが、そちらに近しい蛇石が佐久市曽里のほうにあったという(「水の絶えない蛇石」この話自体は降雨はいわないが)。そちらのほうも併せて目に入れておきたい。 さらに、八ヶ岳から馬流にやってきた蛇なのだというと、その途中には諏訪湖から八ヶ岳を越えて蛇体の諏訪さまがやってきた、という話のある五箇の清水もある(「諏訪様のお住みになっていた清水」)。蛇の移動の話と見るなら、そのあたりを併せ考えたい。 ツイート