おしち海

原文

松原湖畔から稲子へ行く途中に、おしち海という細長い沼がある。おしちという女が池のそばに住んでいて、入水したからだという。

村の中に何か「大寄りい」がある時に、前の晩この海へ行って「おしち様、おしち様、どうか膳や椀を何人前貸しておくんなんし。」とお願いする。翌朝行って見ると、言っただけの膳椀がちゃんとあったという。使ったら夜いってまた元のところへ返して置いた。

悪い人がその借りた膳椀を返さなかったら、それっきり何とお願いしても駄目になった。(稲子、農、山田又助83)

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 南佐久篇』
(佐久教育会)より