おしち海 長野県南佐久郡小海町 松原湖から稲子への途に、おしち海という細長い沼がある。おしちという女が入水したからそういうという。村の中に「大寄りい」がある時は、前の晩に沼に行って「おしち様、おしち様、どうか膳や椀を何人前貸しておくんなんし」と願い、翌朝行くと膳椀が揃っていたという。 使った夜に元のところに返しておいたが、悪い人が借りた膳椀を返さなかったら、それ以来なんとお願いしても貸してくれないようになってしまった。 『限定復刻版 佐久口碑伝説集 南佐久篇』(佐久教育会)より要約 典型的な椀貸し淵の話だが、この辺りは池沼の変化をそのヌシが移ったためだと説明することが多く、またこの松原湖群周辺は松原湖へのヌシの往来を語るところでもあり、あるいはそういったニュアンスがあるかもしれない(「松が池」など参照)。 椀貸し淵はこのように、かつてその水に沈んだ女が膳椀を貸してくれるのだ、と語るものも多い。一方、珍しい例としては、膳椀を返さなかった女がその水場に引かれてしまった、と逆転した筋になる場合もある(「宮詞の滝の「まもの」」)。比較してみておきたい。 ツイート