畠山重忠と龍

原文

むかし源頼朝がライ病にかかったとき、龍の生き肝を飲めばよいという神のおつげが夢に現われた。そこで頼朝は、畠山重忠に龍の生き肝を取って来いと命じた。重忠はどこへ行けば龍がいるかわからないので困ったが、これもまたある夜の夢に信州松原湖に住む龍の生き肝をとるがよいと教えられた。重忠はすぐに出掛けて、松原神社から弁天島へ下る大弥太坂で母に行き会った。重忠は母に頼朝の命を話すと「私が湖の中に入って、蛇体となるから肝をとって主君に奉れ。」と言って入水した。たちまち水面に水柱がたったと見る間に、大蛇の姿が湖上に現われた。重忠は今はもう躊躇する時ではないと、ついにこれを殺して生き肝を取り頼朝にさしあげた。頼朝は病気がたちまち平癒(病気がすっかりなおる)したので、湖畔の神光寺の境内へ重忠の母のために五重塔をたてて供養したという。また頼朝の病気平癒のため、重忠の母が松原湖の主の龍に身をささげて祈ったから頼朝の病気がなおったのだともいう。(松原、農、畠山直勝56)

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 南佐久篇』
(佐久教育会)より