畠山重忠と龍

長野県南佐久郡小海町

源頼朝がライ病にかかり、龍の生き肝を飲めばよいという神託があったので、畠山重忠に龍の肝入手の命が下った。重忠はどこに龍がいるのかも分からず困ったが、夢に信州松原湖に住む龍の肝をとるがよいと教えられた。

重忠がすぐに赴くと、松原神社から弁天島へ下る大弥太坂で母に行き会った。重忠が訳を話すと、母は、自分が湖に入って蛇体となるから、肝をとって主君に奉るよう言い、たちまち入水し大蛇となった。

もはや躊躇する時ではないと重忠はこの大蛇を殺し、その生き肝を頼朝に差し上げたところ、病はたちまち平癒したという。このことにより、湖畔の神光寺に重忠の母のため五重塔がたてられた。また、重忠の母が松原湖の主の龍に身を捧げたので頼朝の病気が治ったのだともいう。

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 南佐久篇』
(佐久教育会)より要約

松原湖の有名な伝説。松原湖は湖群だが、最大の猪名湖畔に「畠山重忠母の墓 ↑ 」という立て札があり、矢印の先は湖中である。つまり、母の墓が岸より20メートル先の湖中にある、ということのようだ。

また、竜蛇がその「生き肝」を与えるというのは、古い(あるいは大陸渡来の)話の構成を引いているかもしれない。本邦ではそれは目玉に集約されていったが、竜蛇の母や子が人の縁者に与えるものは、その肝であったものだ。そこには捨身の意味が強くあったと思う。