白ぎつねと白蛇

原文

今の和の栗林といえば果樹栽培で名高い所ですが、その村はずれに小さな石の祠があるのを知っていますか。むかし、そこには、神様のお使いとして白ぎつねと白蛇がおりました。ひとくちにお使いの者と言っても、それには条件がありました。きつねは体いちめん白い毛で覆われている白ぎつね、蛇は体白くいちめんいぼに覆われ、足の四本ある白蛇、と決まっていたのです。そのようにめったに類を見ない珍しいものですから、神様はどちらも大事にしておりました。ところが当の二ひきにしてみれば、やはり相手のすることが何かにつけて目障りらしく、始終争い事が絶えませんでした。きつねは

「どうしたら自分ひとりが神様にかわいがってもらえるだろう。あの憎らしい白蛇を追い払うにはどうしたらいいだろう。」

と考えているうちに、

「あの蛇の足かいぼを取ってしまえばいいのだ。」

と思いつきました。ある晩白蛇の寝ているすきに、拾ってきた小石でいぼをみんなこすり取ってしまいました。翌朝目を覚ました蛇はびっくり仰天。一夜のうちに自分の大切ないぼが全部取られていたのですから、その驚きようといったらありません。いぼの無い蛇は神様のお使いとなる資格を失ったも同然、身の程をわきまえた蛇は、そのままどこかに姿を隠してしまいました。

さて、思い通りになったきつねは、したい放題の有様で、仕事もせず怠けてばかりおりました。そんな状態ですから、ついには神様の怒りに触れ、遠く信濃の国外に追放されてしまいました。

こうして、石の祠にはだれもいなくなってしまったのですが、この祠の小石を借りて来てこするといぼがきれいにとれてしまう、と言い伝えられています。

『ふるさとの民話』(東部町農業協同組合)より