由池

原文

新海様の裏の二、三町(約二、三百メートル)のところに、池の形のくぼみがある。これを由池という。元禄の正月十五日青龍という僧が、新海様の本殿から蛇体が東北に行った夢をみたので、翌朝、蛇がのして行ったあとをつけていくと、池があって水が出ていた。僧はこの水をすずりに入れて梵字を書くと、不思議にも字が三十六枚の紙の下まで映った。そこですぐ村に触れをだして御符神(おふだ)を配った。これから毎年正月十六日の御神符祭が行われるようになった。

今は十五日丑三頃(午前二時頃)に神職が白い布でふくめんしてひそかに水くみに行くが、途中で出合った者は罰をうけて死ぬといわれているので、田野口ではその夜早く寝てしまう。(田口、農、高橋大吉60 大工原嘉三郎60)

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 南佐久篇』
(佐久教育会)より