通らず

原文

臼田町馬坂と狭岩との間に、「通らず」という淵がある。むかしある村人がその端を通りかかった。すると川の中から一匹の河童に似た大蜘蛛が出て来て、その人の足に糸をからみつけ川の中へ引きずり込もうとした。あわてて足から糸をはずし、そばの大きな杉の木の株にからみつけた。蜘蛛はそれをとうとう川の中に引きずり込んでしまった。その人は青くなって逃げ帰った。

その後村の人達は誰もそこを通らなくなってしまった。そして「通らず」という名を付けた。今でも子供たちは、河童に引き込まれるといって、そこでは水を浴びない。(田口、農、市川宗太郎45)

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 南佐久篇』
(佐久教育会)より