昔、平賀新町のある人が、田掻きをしようと思ったが鼻取りがいなくて困っていた。そこへ小僧が来て「私が手伝いましょう」といって鼻取りをしてくれた。おかげで仕事がはかどったので、家へ帰って御飯を御馳走しようとすると、その小僧の姿が急に見えなくなってしまった。
どこへ行ってしまったのだろうと思って足跡をたどってみると、大田部の弁天堂の中まで泥足の跡がついていた。その人はこれは弁天様が手伝ってくれたのだと、非常に有難く思ったということである。(『平賀村誌』)
代掻きや田植えを手伝ってくれる神仏というとお地蔵さんで、こういった話は広く鼻取り地蔵の名で知られる。これが弁天堂から来た小僧が行った、という事例がどれほどあるものか知らないが、ひとまずここにはある、という次第。
田植えを手伝うというと、竜宮から来た竜宮小僧の行いとなる話がよく知られるが(「竜宮小僧」)、弁天の使いを小僧とは普通しないことを思えば、これも竜宮小僧の話に近いものだとはいえる。