桂水と白竜

長野県伊那市

高遠城中にあった法堂院に、上州から荊室広琳和尚が来られた。和尚は寺が城内にあり、庶民が法堂に入れないので、板町村竜が沢に移り住み、一人悩んでいた。するとある夜、一人の老人が和尚を訪ね、説法を所望した。

乞われるままに熱心に説教をしていたが、その老人の姿が忽然と消えてしまった。和尚が不審に思いながら桂の池あたりに目をやると、白竜が現れ、法を説いてくれたお礼に、岩窟から清泉を出しましょう、といい消えた。

和尚が白竜のいう岩窟を掘ると、清水が湧き出したので桂水と名付けた。これは城中の黄金水・満光寺の桧水とならんで、高遠の三名水といわれる。それから間もなく、和尚は城主や村人と力を合わせ、法堂院を城外へ移し、竜沢山桂泉院と号した。

桂池はもうないが、桂水は今も湧き出ている。桂池の名はその畔に桂の古木があったからそういうといい、何代目かわからぬが今もある。いつからかその古木の中に白蛇が住み、付近の人は時々見るという。桂の木の根元には、小祠が祀られている。

『高遠町誌 下巻』より要約