玄江院の龍磨り石

原文

小諸市耳取の玄江院の境内に龍磨り石(高さ一、九メートル、水一〇〇リットル以上はいるという)がある。むかしのある夏に激しい雷雨で、玄江院の裏の崖が崩れたとき土中から現われたもので、時の住職の如菴和尚が村中の人を頼んで、非常な苦心をして寺の境内へ上げたものだという。石を丈夫な材木で組んだそりに乗せ、それへ太い藤蔓を何本となく結びつけて、村中の老若男女が総掛りで引っぱった。だが、足場が急傾斜である上に石が重いので、引き綱は何回となく切れてどうしても石を乗せたそりが動かなかった。その時に一人のうら若い婦人が、裸で石の上に乗って木遣を唄った。それに力を得てついに引き上げることができたのだという。

小諸の牧野の殿様はこれを見て、非常に珍しい龍磨りであるからといって心からほしがったが、住職はどうしても献上するのがいやだったので、さっそく石工を連れてきて石の表へ南無阿弥陀仏と刻んでしまった。

牧野の殿様は立腹の余り、ついに住職を寺から追放したという。(山浦三代助51)

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 北佐久篇』
(佐久教育会)より