霧窪の伝説・二

長野県小諸市

西原の神田地籍に、霧くぼという所がある。じめじめした所だが、昔は大きな池で、大きな蛇体の主がいたという。この主は七年に一度、近隣の家の屋根へ白羽の矢を立て、娘の犠牲を出させた。そしてその年の白羽の矢は、村の長者の一人娘に立った。

長者と娘の嘆きは一通りではなかったが、最も嘆いたのは娘の許婚の若者であった。長者があれこれと手を尽くすも逃れる方法がなく、その日が迫る中、許婚の若者は立ち上がり、決死の覚悟をもって池に向かった。

激しい風雨の中、主の大蛇と若者の戦いが始まった。主は強かったが、若者も本気である。いつ果てるともない死闘の末、ついに共々に力尽き死んでしまった。このときの暴風雨で大池も主も若者も一緒に流され、今の場所に移ったのだそうな。

『限定復刻版 佐久口碑伝説集 北佐久篇』
(佐久教育会)より要約

池が映った先は押出の瓢箪池だといい、布引観音から千曲川の対岸、霧久保城址のある付近だと思うが、現状は不明。この池にはいろいろな伝説があり、また、それぞれ移ってきたというのだが、その前あったという場所も色々にあって、話の中心が定まらない。

なかなか本邦ではこういったヒロイックな話は見ないが、それでも大蛇を倒した若者と娘は結婚しましためでたしめでたし、とはならないのもまた本邦の話ならではだろうか。