野池明神

長野県飯田市

郷社諏訪明神様は、諏訪の本神様の親類だと村人は言う。神社付近には野池という大きな池がある。昔、この池のほとりを歩いていた村人が、異様なうめき声を聞いて仰天し、飛んで逃げかえった。それを聞いた村人たちは野池には大蛇が棲むと噂して誰も近づかなくなった。

それから数日して、野池の長者丸野の主人の夢に、白髪を腰まで垂らした崇厳な老人が現れ、自分は諏訪の神だが、安心して生息できる大池を探し、地下を潜って来た、この池は住みよいので、今後祭りくれれば幸いである、と言って消えた。

これを聞いた村人たちが集まって恐る恐る池に近づくと、山丘を七巻半にとぐろ巻いた大蛇が、紅蓮の焔を吐いて水面に映る影と戯れていた。そして、村人に発見されるや大蛇はゆるゆると水中に隠れ、物凄い水が起き渦が巻いた。

これにより、神社が建立され「野池神社」と称された。大蛇は再び姿を現さなかったが、多くの宝物を携えていたと伝えられる。この池は流れ入る川もないのに、旱魃甚だしい真夏にも水の絶えた日はないという。

『千代村誌』より要約

野池神社は今も御柱が行われる社で、社頭には信濃二宮とあり、南信総社であるとも土地ではいう。何をもってそういうのか現状不明だが、上に引いた話でも大蛇が宝物を持ってきたなど古い豪族の移動を示すのにまま使われるモチーフもあり、そういった話がある土地なのかもしれない。

ところで、この野池神社の御柱を行う際に木が伐り出される川原沢というところには、「空池」と呼ばれる線状凹地があって、不思議とされてきたそうな。それが諏訪湖から来た大蛇の経由した場所だ、などという話はなかっただろうか。

天竜川周辺を上り下りする諏訪の竜蛇神は、時々その経路に池を出現させる。竜蛇は地下を移動するのだけれど、時々外に出るので、そこに一時池沼ができる。有名処では、諏訪湖と遠州桜ヶ池を行き来する竜神が通る時に出現するという、遠州水窪の池の平の幻の池などがある。