国造じいさんに教わった話。ある人が、魚釣りや冬には山師をしていた。ある時、沢の奥に釣りに行ったら、風倒木にシイタケがいっぱい出ていた。それは何十キロもあって、倒木は大きな蛇に見えた。そこでその人は、あそこには魔物がいる、俺も食われそうになった、と皆に話した。
村の者はそれを聞いて怖がり、その沢に近寄らなくなった。沢は魚もよく釣れるところで、その人は自分一人で魚を自由に釣って、シイタケも自由にとったそうな。
その結果、過ぎた欲のしっぺ返しに……となると漆淵のようだが、そうはならない。そういううまいことをやった人がいた、という話でよさそうだ。
恐ろしい大蛇が出たという噂の蓋を開けたら何のことはない、という話はままあり、神奈川県の相模川では、大蛇の噂に負けずに乗り込んだ子どもたちが、大人衆のばくちの現場に出くわしたりなどもする(「大蛇退治」)。
長閑な微笑ましい話といえばそうだが、怪異が語られる理由としては侮れないものでもある。これが個人のシイタケの独占くらいならよいが、それが共同体間の縄張りの越境の禁止などであったら、途端にシリアスな様相となるだろう。そういう内容が隠れている話は結構あるはずだ。