むかし、岡谷の西堀にオフクというたいへんケチで、そのうえよくふかなおばあさんが住んでいました。
ポカポカと、いまにもねむってしまいそうな、あたたかい春の日のことでした。オフクばあさんは、新しくたてたばかりのいんきょやのえんさきで、長いキセルですぱすぱとたばこをすいながら、いい気分になっていました。
すると、のき下でチイッ、チイッと、しきりに鳥のなき声がするのです。うるさいなあとみると、二羽のツバメがひっきりなしに、口にドロと、わらをくわえてきては、のきばにとまって、ちょんとおいていき、チイッと、ひとなきないて、またいきおいよく、とびだしていくのです。せっせとすを作っているさいちゅうです。
このへんではーーツバメがすを作ると、えんぎがいいぞーーと、いって、みんな大よろこびでだいじにするのでした。
ところが、ケチなオフクばあさんです。
「これこれ、わしの家ののきばへ、ゆるしをえないですを作るなんてどういうだ。しかものきばをよごして、とんでもねえツバメだ。うよし、みてえろ。」
さっそく、ものほしの竹ざおを、かついできて、もうちょっとでドロでかこんだかわいいすが、しあがろうとしているのをガキガキとつつきからし、すっかりおとしました。
きっと、二羽のツバメは、夫婦だったのでしょう。これからたまごをうみ、かわいい赤ちゃんをかえし、りっぱにそだてようと、たのしい夢をいだいて、いっしょうけんめいにすを作っていたのにちがいありません。
夫婦のツバメは、キャッチー、キャッチーと、かなしい声をのこして、諏訪湖の方へきえていきました。
それからいく日かたちました。オフクばあさんが、ざしきでぬい物をしていると、どこからともなしに、このあいだの二羽のツバメが、すいっと、家の中へとびこんでポトン、ポトンと、口にくわえていたものを、たたみの上におとしてでていきました。オフクばあさんは、なんだろうと、いそいでひろってみると、それは夕顔のたねでした。
よくふかなオフクばあさんは、たった二つの夕顔のたねですが、(これはもうけた、もうけた)とにっこりして、さっそく庭さきの土の中へうめました。
やがてめをだした夕顔は、葉をひろげ、くきをぐんぐんとのばし、まっ白い花をつけました。そして暑い夏のおしまいのころには、いままで一度だって見たことも、きいたこともない、長い長い、みごとな夕顔が、何本もたれさがりました。
(これはすごい。すごい)大よろこびのおふくばあさんは、すぐに、かんぴょうにひこうとして長い夕顔を、まな板の上にねかせ、スパッとわぎりに切りました。
「キャーッ。」
オフクばあさんは、ひめいをあげてとびさがりました。なんとまあ、おどろいたことには、切った夕顔の中から、でてくるはくるは、かぞえきれないほどの、まっ赤な小さなヘビが、グヨグヨはいだしてくるのでした。
それではと、ほかの夕顔を、つぎつぎに切ってみました。それもやっぱり、まえとおなじヘビがとびだしてきました。さすがのオフクばあさんも、これにはただあきれかえり、ゴザに夕顔とヘビをくるんで小井川の一里づかのやぶの中へ、(チエッ、ひどい目にあったわい)と、ぽーんとなげすてました。
それからしばらくたちました。
すてられたちっちゃなヘビは、たちまちやぶの中で大きくなりました。ところが、おかしなことにどのヘビも、みんなしっぽがないのです。それはオフクばあさんが、夕顔を切ったときにいっしょに切られてしまったのです。
さあさあ、えらいことになってしまいました。一里づかの道は、何百、何千、いや、何万びきものしっぽのない赤いヘビが、とぐろをまいたり、長くのびてひるねをしたり、また、ヌルヌルとさんぽをしたりして、とっても歩いてとおれたものではありません。馬で、やっとのこといくというありさまでした。
そのうちに、どえらいことがはじまりました。しっぽのない赤いヘビの大ぐんは、いっせいにかま首をもちあげて、せいぜんとぎょうれつをつくり、ヌルヌルと大行進をかいししたのです。まるでまっ赤にもえた火のおびのようです。それが、ずうっと、長くつづきました。
やがて、ドッドド、ドッドド。きそく正しい地ひびきとかわり、大ぎょうれつのせんとうは、あのケチンぼうでよくふかな、オフクばあさんの家をめざしてつきすすみました。
メリメリ、メリメリ。あっというまに、オフクばあさんの家もろともに、ひとおしにされてしまいました。そして、ヘビの大ぎょうれつは、ゆうゆうと塩尻峠をくねって、どこかへきえていきました。