稚児が淵

原文

霊泉寺というお寺が開かれた頃、寺には大勢のお稚児さんがいました。

ある晩、一人のお稚児さんが庭に出て、池のそばまでくると美しい娘がいました。娘が忘れられなくなったお稚児さんは、寺の規則を破ってこっそり会っていました。

いく月か過ぎた晩、二人が話をしていると仲間に見つかり、和尚さんに本堂に閉じこめられてしまいました。見張りの寝込んだすきをみて本堂を抜けだしますと、娘が手招きをしています。お稚児さんが淵までくると娘の姿が消えました。見ると淵の底からほほ笑んでいるではありませんか。お稚児さんはためらわずに飛び込みました。

次の朝、淵の中に浮いているお稚児さんが見つかりました。村人はこの淵に住む龍が娘に化身して、お稚児さんをとりこにしたのだとうわさしました。

その後、この淵を「稚児が淵」と呼ぶようになりました。また、一説には、蛇の化身とも言われています。

 

【解説】柱状節理の岩を滝がえぐって作った淵には、緑色がかった水がたたえられていて、思わず引き込まれそうになる怪しい淵です。

丸子民話の会『丸子の民話をたずねて』より