お仙ヶ渕

原文

むかし、武石村にふらりとやって来て住みついた三姉弟がおった。

一番上が、お仙という女。つづいて庄兵衛、金次郎。ところが、この姉弟が来てからというもの、おだやかだった村が、急に事件ばかりが起こる村となってしまった。

何しろ毎晩のように、ウサギは盗まれるは、ニワトリは奪われるはで、おおさわぎになった。問題なのは、そうした場所にはきまって、大蛇のものと思われるうろこが落ちていたのだ。

「こりゃあ、どう考げえても、大蛇のしわざにちげえねえ」

そんな噂がたった。その噂と同時に、よそからやって来た三姉弟が、どうも怪しいとみられ、注意しておったところ、やっぱりその者たちと分かった。

ところが、相手が大蛇となると、退治してもかえって、たたりが起こったりして、これは怖いことになるぞと、村人たちは思案した。そこで考えついたのが、三人を神様として祀って、封じ込めることだった。

そんなことから三人は、それぞれの場所に、丁寧に祀られた。場所を選ぶについては、カエルやイワナがたくさんいて、神になったらそれらが不自由しないようにと選びにえらんだ。その結果が、お仙はいまのお仙ヶ渕、庄兵衛は、築地原のしょうぶ池、金次郎は権現の金次郎池にというように。

それで、一年に一回はお祭りをすることにしたところ、ウサギなどの家畜の盗難事件はなくなった。

そればかりか、大干ばつがやってきたときなど、お仙ヶ渕のご神体に祈ることによって、災難から逃れることができたという。

和田登編『信州の民話伝説集成【東信編】』
(一草舎出版)より