タッチュウの悲恋

山梨県南都留郡富士河口湖町

河口湖南岸河口の近くにタッチュウという古い火葬場跡がある。ここ一区域の土質は黒く、まわりの畑地とは画然と色別できる。タッチュウとは塔頭・塔場地の謂であろう、現在古い墓石、野仏などが散点されている。

むかしこのほとりに水泳の巧みな娘がいて、対岸に住む若者といつしか相思の仲となって、娘は毎夜湖水を泳ぎ渡って、若者のもとへ通いつめていた。ある夜対岸から若者を連れ帰った娘が、骸が燃えるすさましい火焔を浴びながら、濡れ乱れた衣装を正したり、濡れ髪を櫛けづていた。若者は骸が黒く曲り伸び焦げるさまを見るのも恐ろしいのに、それを平然と気後おくれすることもなく、身だしなみに他愛ない娘の姿が、夜叉ではないかと怖ろしく眼に映り、その夜からプッツリ若者は娘から遠のくようになってしまった。娘は若者の一変した心変わりをはかなんで、石を抱いて湖に飛びこみ、はかなく果ててしまったのであった。(河口)

伊藤堅吉『河口湖周辺の伝説と民俗』
(緑星社)より

ともあれ、恋慕の思い一心で通ってくるおルスの話と比べると、火葬の火を浴び濡れ髪を梳る娘(類話では、火葬された遺体を愛おしそうになでたりと、その部分の妖しさが描かれる)、といった具合により娘の非日常性が強調された話となる。