河口湖北岸勝山近くに住む漁夫の娘おルスが、対岸大石の若者黒兵衛と人目をしのぶ仲となった。ルス女は夜な夜なタライのような舟に乗って河口湖を渡り、大石フタマチの湖に突き出ている黒い岩の上に立って灯をかざし、胸焦して待つ黒兵衛のもとへ通うのであった。
ところが黒兵衛には将来を誓い交わした、おテルという娘がいたので、テル女はそれと気づいてルス女を心から呪っていた。十二ヶ岳おろしが吹きすさぶ嵐の夜、おルスの舟は木の葉のように荒ら波にもまれ、黒兵衛がうち振る灯は裂風に吹き消され、暗夜湖上で目印しを失ったルス女は、舟もろ共湖中の渦に巻きこまれて果ててしまった。
黒兵衛は道ならず、二人の娘を恋し悲しませた非を悟ると、妙本寺の仏門に入ってルス女の霊を手厚く弔ったという。その後黒兵衛がルス女を心待ちにして立った岩岬をルスヶ岩と呼ぶようになったし、大石の黒岳(御坂山塊の主峰)、黒石、黒兵衛の話として、しんみりと語り継がれた。(大石)