雨河内川を遡ると、大きな滝があり、深さ五六メートルの大きな渕がある。下部村の雨乞い渕であり、周囲の村々もそれぞれの雨乞いの効き目がないときは、ここに集って雨乞いをした。また、雨乞いのとき以外は近づいてはならない渕といわれてもいた。
ある時、一人の男が沢を上ってきて、この渕を泳ぎ回る魚に見とれ、夢中になって釣り糸を垂れた。すると、渕の中から大きな蜘蛛が現れ、男の足に糸を巻きつけては水中に戻るという動きを繰り返すのだった。
男ははっとして、絡まる蜘蛛の糸をそばの太い枯れ木へ巻きつけた。そのとき「よーし、引け」という声が響き、枯れ木は根こそぎに渕の中に引き込まれたのだった。男は釣竿を折り渕に投げ捨てて逃げ帰った。それよりこの渕は「蜘蛛(くもん)渕」と呼ばれるようになった。