池太神様のお話

原文

昔本村に、高岸源佐衛門と言う人がいました、弓矢を持って稲又谷の奥へ狩に行こうと出かけました。稲又谷を飛び越えようとすると、谷川の中に出て居るあづき石と呼ばれていた小さい岩の上に、ピカピカ光る小さい神様がのっかって居るので、こんな山の中にこの様な金色の神様が居るわけは無いと思い、若しも生ある神様ならば又この岩の上に上ってござらっしゃれ。と神体を川の中へ落して通り過ぎました。そして山中を狩して廻りましたが、その日にかぎって何も取れません。あきらめて家に帰る事にしようと、朝飛び越した岩の上を見るとどうでしょう。又ピカピカの小さい神様が上って光って居るのです。これは神様かも知れない、と思って今度は弓矢をさし出して、

「もし誠の神さまならどうぞこの矢の上に上って下され。」

とさし出した矢の上に神様は上られたのです。源佐衛門は一寸八分程の小さい金色のお姿をした神様をしっかりと陣吉(べんとういれ)の中に入れて、自分の体に結びつけて家に帰りました。

その夜はその神様を家の神棚に上げて寝所に入りましたが、その夜は家中がミシミシ鳴ってゆれるので眠るどころではありません。源佐衛門はすぐ分りました。ああこれはあの神様だと分りすぐ起き出して、神様を家の裏の高い所へ祀って寝ました。

今度は神さまは夢枕に立たれて申されるのに、

「今日は私をあの谷川から連れ出して来てくれて有りがとう。お礼に今私を祀ってくれたこの処に清水を湧かせて進ぜよう。なお、私はここに祀られる者ではない。私の静まる所は前の山を五十丁上った所です。」

と申されました。

それで源佐衛門は村の人々と話し合い、日を定めて山を刈り分け頂上へ向いました。

夕方までかかってようやく大石の前に出ました。その向うは大木の下に笹が一面に生い繁り霧がかかって居ました。村人達はその大石の前に、神様を安置して帰りました。その晩又夢枕に立たれた神様は

「今日はごく労であった。このお礼に当村を末長く守護して上げましょう。実は私はこれより八丁行った所に池がある。その所が私の鎮座する場所です。」

その後、又雨畑の人達は上って行き、笹を刈り分け池の前に小さな祠を建ててお祀りして来ました。

池太神さまは雨畑の稲又谷から発祥され、いく度か村の人々の手足を借り、又奇蹟を残し今も人々の厚い信仰によって生き続いて居ります。毎年四月四日にお祭りを行っております。一度おまいりに来て下さい。

提供 望月ふみ江 雨畑のむかしばなし

早川町教育委員会『早川町の民話と伝説』より