河童娘

山梨県南巨摩郡早川町

三月下旬に早川町に入ると、武者のぼり鯉のぼりが立っており、よその人は首をかしげる。この町では桃の節句と端午の節句を併せて四月の節句に行うので、こうなる。昔、その四月に河原近くの畑をうない始めようとした夫婦の前に、見かけぬ娘がやってくるようになった。

いろいろ話しかける娘に、夫婦はお茶や芋などをあげたが、村の娘でなし、どうにも合点がいかなかった。そこで村の衆に話してみると、それは河童が化けているのじゃないか、という。これを聞いてすっかり気味が悪くなってしまった夫婦は、今度来たら娘に河童の嫌いな夕顔の汁を飲ませてみることにした。

そして次の日も来た娘に、夕顔の汁を混ぜた茶を勧めたところ、娘は飲みほすなり真っ青となり、口を押さえて河原の淵に影を消した。やはりか、と夫婦は思ったが、別段悪戯をしたでなし、悪いことをしてしまったと、長い間気が晴れなかったという。

三井啓心『早川のいいつたえ(第一集)』より要約

もし早川の河童娘の話も同じようなものだったとしたら、早乙女をやってくれた河童娘の話であった、ということになるだろう。そうであれば大変重要な事例だった、ということになる。