蛇になった家宝の刀

原文

小縄は昔、高住、赤沢と三つあわせて三ヶ村になっていて、大昔は身延の一部だったといわれています。

縄とは縄張りといわれるように、範囲をあらわしますから、身延の分という意味からつけられた名だろうという歴史の研究家もいます。

小縄のある家に、大小の刀がありました。

先祖伝来の家宝ということで、大切にして座敷にかざり、自慢のたねにしておりました。

そうなると、「あのええの刀はたいしたもんどう(あの家の刀は大したものだ)」「売ればええかんしるら(売れば高いだろう)」などと人の中には勝手な値までつけるものもおりました。

いつの間にやら、それが広まって、泥棒が目をつけました。

ある夜、しのびこんだ泥棒は、なんなく刀を盗み出し、わきにかかえこんで山道に出ました。

しばらくいくと、わきのところがぬるぬるしてきました、刀のさやの塗りですべるのかと、ぐっとしめましたが、なおぬるぬると動きます。

へんだなあと夜目をこらしてみますと、なんと刀は二匹の蛇になっていて、脇から抜けようとくねっています。

おどろいた泥棒は、思わず悲鳴をあげ、刀を投げ出して逃げ去りました。

あとから来た村の衆が、道にのびている二匹の蛇をみつけました。

暑い夜には、蛇が道に出て涼むことはよくあることなので「このやろう」と、石を投げました。するとパカッと音がして一匹がふたつに割れて光り、あとは動きません、おそるおそる近づいてみると、なんと刀のさやが割れてころがっています。

「なにえ、こりゃあ刀だわ。」ということで家に持ち帰り、村の衆に話すと次の日盗まれた家はすぐわかりました。

よほどこの家が気にいっているんだろうということで、それから刀はいっそう大事にされましたが、長い年月がたって、大刀のほうはなくなり、小刀だけが、現戸主、望月武平さん宅にさびついたまましまわれています。

三井啓心『早川のいいつたえ(第二集)』より