池の平

原文

昔、一条の城があったころ、その近くの山の中腹に水がたくさん湧く淵があって、そこからお城まで水を引いたとも言われている、底なしの淵でした。

そのころ、川浦の一百姓がそのまわりを開墾していました。ある夏の日のこと、昼寝をしていると夢の中で>池の縁を多数の神さまがお出になって、一日で立派な田に変えてしまいました。

百姓は驚いた拍子に目がさめ、目をこすりながらあたりを見まわしましたが別に変わったこともないので、腰からどうらんを出し、たばこを吸っていると、池の縁から大きな山グモが出てきました。そして自分の草鞋から出ている親指の先に糸をかけ、また池の縁にもどり、またかけに来ました。不思議に思い、そばにある大きな木の切り株にそのクモの糸をかけかえました。しばらくクモは同じことを繰り返していました。

一刻を過ぎたころ、突然二かかえもある大きな切株は、音を立ててその池の中央に渦を巻きながら引き込まれていきました。

これを見たお百姓は腰をぬかさんばかりに驚き、一目散に山を飛び降り、事の次第を名主さんに話しました。

話をすっかり聞いた名主は、しばらく考えた末、村人を集め、その淵を埋めることにしました。下りの谷あいを切り開いて水を流し、村中総出で一年もかかって淵を埋め、立派な田にしました。また田のまわりは畑に開墾しました。キビ、アワ、ソバなどを作って村人の食料の増産となり、長い干害の時でもここだけはよく実りました。

この田のまわりは池の平と呼ばれましたが、その後蓮田となりました。面積は四・五町歩、春先には蛙が多く見られます。

三珠町教育委員会『語りつぐ三珠』より