娘に化けた白蛇

山梨県甲州市

明治の代になってから屋根に住んでたんですって。場所は大藤の中萩原かな。大きなクサヤの家でね。棟にユキシロみたいな草が生えてる。そこに白い蛇が住んでて。そのうちには娘がいなくって、両親が娘を欲しい欲しいと思っているうちに病で倒れちゃって、それでその蛇が娘に化けて、夜になると出て来るんだって。そしたらば、多分お母さんだったと思いますよ。「うちには女の子はいないはずだけどなあ」って話しかけるといなくなっちゃうんですって。こういうように歩いて行くんじゃなくって。それでまた、次の晩に目が覚めるといるんだって。それだけどこっちから言葉かけるといなくなっちゃうんだけど、向こうからは言葉かけるんですってよ。「お母さん」とか何とか。そしてお母さんも元気になってある時見ちゃったらしいのね。蛇だってことを。そしたらばそれから出て来なくなったけど、多分うちのあそこにいるのがそうだろうっていうことで、ずっと保護してたみたい。お婆ちゃんから聞いてた。(奥野田 女 T14生)

『塩山市史 通史編 下巻』より

屋敷に棲み、その家を守護する屋敷蛇と、竜神・水神等に祈願して授かった娘が蛇体となって水に帰るという蛇娘の話の間をつなぐような話。一般に、蛇体と化す娘の話には「守護神」という側面はあまり見えないが、結果として家(長者家)の盛衰の結末がまま付随する。

屋敷蛇が人の形をとることはまれだが(蔵の蛇などは時折人の姿をとる)、座敷ワラシのことを思えば不自然というほどでもないだろう。そもそも座敷ワラシも水より来るものという面も強い。