蛇池と仙光寺

原文

昔、昔、等々力地内の仙光寺附近一帯は、たくさんの木が生い繁り、うっそうとした森林や、竹藪におおわれたところで、人の住む家もなくて、昼間でもこわいような場所でした。けれども土地が肥えていたので、この土地を開墾して、田畑として、人々がだんだん住みはじめました。

ところが奇怪なことに、この部落の子供達が、次々と何者かのために命をうばわれ、人々を大そうこわがらせました。その怪物は、顔は美しいお姫様のようですが、胴体は白い蛇の形をしており、子供たちがやさしい姫の姿にみとれて、そばに寄ると、この白蛇に命をとられてしまうということでした。そのため、これを恐れて、この土地を捨てて、他へ移る人もだんだんと増えてきました。

そんなある時、一人の旅僧が、たまたまこの土地を通りかかり、この白蛇の話を精しく聞き、「これは何か訳があるのに違いない。仏の力をもって、この白蛇を浮ばせれば、このような不安や恐ろしいこともなくなり、住民も他に移転せずに、安心してこの土地で暮すことができるだろう」と、竹の柱にかやの屋根のいほりを作り、その中に入り一心不乱に「行」をいたしました。

三七・二十一日の行の末、ついに白蛇が姿を現わし、坊さんに向っていうことに、「このような白蛇の姿では、どこへも行くことができません。せめて、神・仏の仲間入りが出来るようにしてください」と、その願いがかなえられて、天から呼んだ黒い雲に乗って、遠い彼方へと立ち去りました。

これから後、子供が消えてしまうこともなくなり、人々は安心して住むことが出来るようになりました。旅の坊さんは、大役を果したので、また旅立とうとしましたが、人々は、この立派な坊さんに、ぜひこの土地に住んでくださるよう一生懸命お願いしました。坊さんも人々の熱心に負けて、このいほりに住むことになりました。これが仙光寺の始まりといわれ、今でも蛇の住んでいた池の形を残しています。またこの池は、どんなひどい日照りでも、清水が湧き出し、水のかれることがないということです。

(原題:蛇池)

『ふるさとの民話と伝説(第一集)』(勝沼町)より