水晶山と龍人

山梨県甲州市

水晶山の麓に三光の池黄金の滝がある。水晶山から湧き出る清水をたたえた池で、大蛇が住むという。どんな日照りでも水が減ることはなく、またどんな大雨でも濁ることがないそうな。それで、村人たちは龍人様の池とも呼んでいた。この池の水が竹森川と合流するところに黄金の滝がある。

池より二百メートルほど南に円通山慈眼院という禅寺があり、武田光守の奥方が住んでいた。奥方はある年の春、龍人の夢を見て懐妊した。そして男の子が生まれ、皆は喜んだが、その子が四才の夏の夜、夜な夜な姿を消すということがあった。

奥方が驚き探し回っても見つからず、朝になると戻っているという。そこで奥方は考え、糸毬の糸を子供の袖に付け、姿を消したら追ってみることにした。そしてそのようにすると、糸は北へ続き、三光の池へ通じていた。見るとそこには子供の着物が脱ぎ捨てられている。

一方池の水面では、大蛇が大きな鎌首をもたげて悠々と泳いでおり、奥方は腰も立たぬほど驚き、ようやく寺に帰った。それ以来は池に蛇の姿は見えなかったという。この子は顔が蛇に似て左右の脇下に三枚づつ鱗があり、聡明であった。この子が龍石山永昌院開山の神嶽龍禅師一華文英和尚となる。

『塩山市の伝説・民話』(塩山市教育委員会)より要約

話の中に出てくるもので、現状所在がわかるのは慈眼院のみ。北にその三光の池があるというが、ちょっと見えない。滝も不明。水晶山とは扇山(竹森山)のことで、そこからの流れが竹森川に合流するところというと、慈眼院の西に二百メートルあたりのところとなる。

このあたりは、式内:玉諸神社論社の玉諸神社があるところで、水晶山中腹に御神体だった水晶が祀られていた(今はない)。玉諸神社が竜蛇神祭祀の社と言えるかどうかは微妙だが、無関係の話とも思われない。

青梅の話では、金峯山の竜神が母の懐に入り懐妊した、といわれるが、塩山の話を見ると、より土着の竜蛇信仰に連なり生まれた竜蛇の子であったことがうかがわれる。青梅が御嶽信仰の中心ということを思えば、金峯山の竜神のほうが改変と考えたほうがよいだろう。