大泉

山梨県北杜市

昔谷戸の清吉爺さんが、八ヶ岳に狩に行った。爺さんにとっては八ヶ岳も築山のようなもので、その日も赤嶽入りから権現、三ツ頭、燕岩と下ったが、一日獲物がなかった。そこで清吉爺さんが岩角に腰をおろして一服していると、草むらから爛爛たる眼を光らせた大木は白蛇が爺さんを見ているのだった。

熊にも狼にも驚かない爺さんだったが、この白蛇には指が固まり引き金を引くことができず、そのうちに、白蛇は銃身にまつわり、爺さんをひと呑みにしようとした。逃げようともがく爺さんだったがそのまま気を失ってしまった。

ところが清吉爺さんは蛇に呑まれることはなく、夜露にぬれて蘇生した。そして村に飛んで帰り、事の次第を語った。皆で話の岩角に来てみると、そこには清冽な泉が噴水のように湧き出ているのだった。村人はこれを神の恵みと感謝し、白蛇を化身と祀った。清吉爺さんの功徳は長く称えられ、泉の水は岳麓数ヶ村の用水となっている。

北巨摩郡教育会『郷土研究 第二輯 第一冊 口碑伝説集』
(昭和10)より要約

北杜市大泉地区の地名由来となるのは泉神社近くの湧水で、泉さん、などと呼ばれ、近在で説明なく泉といったらそこのことになる。その大泉の伝説。しかし、この筋ではどこが清吉爺さんの「功徳」で、なぜ水が湧いたのかよくわからない。