昔、長澤の猟師が八ヶ岳へ狩に行った。その日は獲物がなく、仕方なく帰ろうとすると、大山火事に巻き込まれ、猟師はあちらこちらと逃げ回った。その中で、根の焼けた小松の上に、火に追われ逃げのぼった小蛇が巻きついていた。猟師はこれを自分の鉄砲に巻きつかせ、火のないところへ逃げると放した。
そして自分も帰ろうとしたのだが、急にあたりが真っ暗になってしまい、方向もわからなくなってしまった。難儀していると、彼方に明かりが見え、訪ねると老母が一人あばら家で火を燃していた。老母は猟師を見ると、自分は助けてもらった小蛇の母だといい、礼をするためにこうして呼んだのだ、といった。
猟師は村に水がないことから、水がほしいといい、老母は芦の一節に水を入れ、この水をこぼしたところから水が湧く、と告げた。猟師が我に返るとあばら家も老母もなく、あたりは夕方の日が照っていた。夢のようだったが、手には先ほどの芦の一節が本当に握られていた。
ところが、猟師が小便をしたくなって芦を立て掛けた際、風が吹いて芦が倒れ、そこに大半の水がこぼれ水が湧いてしまった。これが今の泉だという。猟師は残りの水を持ち帰り、村の中央にこぼしたが、もう少しの水だったので、少しの水しか湧き出さなかった。これは長澤の祖師堂という土地の小さな泉だという。