消える乗客の正体

原文

その幽霊じゃなくて、弁天町の弁天さんは西湖が昔、こういうふうにつながってて、早く言やあ、西湖の岸へ弁天さんて神さま祀ってるでしょ、そしたら、あすこに祀ってあったら、熔岩が流れてきて、西湖がもう切れちゃって、だから、西湖の湖っちゅうのは、うんと大きかっただね、昔は。ほたら弁天町の弁天さんは、西湖の弁天さんだって。

ほして、その西湖、タクシーへ乗って、

「弁天町まで」

って言って、西湖の方から、青木ヶ原からタクシーに乗っちゃ、

「弁天町まで」

ちって言ったぁ人がね、家に、ここのところにお姫さん(お姫水神)のところに、おじいさんが、「お水神さんだからぁ」

ちって、小さい池を作っておいた、このくらいの池を、ほたら、そこに水があるもんだから、西湖、こういうにつづいていたものだから、そこ(お姫坂一帯)も早く言やぁ、自分の領分だわね、昔、大昔に言わせれば、そいで、その、弁天さんがね、西湖から来ても、弁天町の弁天さんのあすこの中に、社の中へものをいっぱい積んどいてね、子供のオミコシの材料だの何だの積んどいて、弁天さまが入れなかっただと。ほしたら、弁天町のあのその近所の総代さんちがね、頭が痛いし、いろいろ病気が出て、ほして明見の、今私が言った(オウカガイの)所へ見てもらいに行ったら、

「弁天さんのお社の中をきれいにしないから、弁天さんが出入りできないで、ウロウロしている」

っちゅう話だと。そしたら私が(そこへ)行って、

「まーったく、もう、うちの方へ幽霊が出るなんていう話が」

なんていう話を私がひょっとしたら、

「それが弁天さまだよ」

っちゅうわけで。……略……

むこう(弁天町)でも、弁天さんの入口きれいにして、今では、うんときれいにしているだよ。(下吉田 女)

『富士吉田市史 民俗編 第二巻』より