乙女湯

原文

あすこに、まあ、美しい娘がいましてね。そして、その娘が夜々そっとぬけ出しては、どっかいなくなってしまうと。

「一体どうしたことか」

て聞いたぁけど、何も言わないちゅうですね。それから、心配のあまり抜け出した後をつけてみたらば、何か新倉山を登って、向こうに三階の滝か何かありますよねぇ、向こうの方へ行ったと。そいで、そこに竜だか蛇だか居て、その娘が見込まれて。その娘が、

「家の衆に申し訳ない、こういう訳で、もうここに居られなくなった。そのかわりここの水が、どんな日照が来ても絶対に絶えることがないようにして行くから許して下さい」と、こう言って。それ以来あすこへ乙女湯という湯があったんですがね、そっからその水が絶えなく湧いて。そして、後に鉱泉だかの湯をたてて入ったと、こういう話をね。(下吉田 渡辺泰敏)

『富士吉田市史 民俗編 第二巻』より