雨乞いをした若者

原文

その昔、相川の里では、田植えをしたが一と月も雨が降らず、水不足で困っていました。村人達は、寄ると雨の話になります。

「いつになったら、雨は降るずらか」

「これじゃあ、日干しになっちまぁ」

「なんとかしなくちゃ、なんねえな。誰かうまい知恵はねえか。」

「雨乞いでもするしかあるめえ」

「そりゃいい考えだ。けど、どの神様に頼むだ。」

村人達は、答えにつまり静かになってしまいました。その時、ある若者が

「おらにいい考えがある。あの大橋の主に頼んでみたらどうずら。」と言いました。

「そうだ、そうだ、大橋の主に頼んだらええ」と村人達は、手を叩いて賛成しました。

若者は、村の衆から任されて大橋の主へ頼みに行くことになりました。

大橋の上を行ったり来たりしてみたが、主は現われません。橋のたもとでどうすれば主に会えるか考えた。すると、大橋の主の話が思いだされました。

「そうだ、追分の唄をうたえば、主はでてくるにちがいない。」

若者は大声で追分の唄をうたいながら、橋のなかばまで来ると、どこからともなく、大橋の主が怒って現われた。

「おのれ、わしの嫌いな追分の唄をなぜうたう。」

若者は、すなおに訳を話して謝った。

「実は、おらんとこの村の田圃に雨が降らんで皆んな困っている。どうか、雨を降らしておくんなせい。」と頼みこんだ。

大橋の主はしばらく思案をしていたが、

「積翠寺のおたあ明神に行って頼むがよい」

と教え、命を取るのをやめ、若者を許しました。

早速若者は、積翠寺へとんで行った。

「おたあ明神様、どうか雨を降らせておくんなせい。皆んなが干ばつで困っているだ。お救いくだせい。」若者は必死でお願いをした。すると、どこからともなく声が聞こえてきた。

「よろしい、一生か一代か」

「一代でけっこうです。」

と、若者は、驚きと嬉しさとであわてて答えた。

若者が積翠寺を下り始める頃、空は次第に曇りだし、相川の里に着く頃には、雨が降ってきました。

それからというもの、相川の村は、干ばつでこまることはありませんでした。

月日が流れ、おたあ明神へ頼みに行った若者も年老い、亡くなってしまいました。すると、昔の様に日照りが続いたり、水になやむことが多くなってしまいました。

村人達は、雨が降らないと、若者がおたあ明神様に答える時に、「一生」とお願いすれば良かったのになぁと思うのでした。

(砂田町赤池兼明さんの話)

甲府市webサイト「おはなし小槌・第二集」より