変った定紋

山梨県甲府市

古関小学校の近くに、犬石という石がある。昔地頭は、弓に秀でていたので、狩にも出、愛犬もいた。ある日単身犬を連れ、本栖路に出かけ、獲物を探したが、少し休憩した際に眠気を覚えた。ところがそこで愛犬がしきりに吠えたて、しまいには主人の膝頭に噛み付いてきた。

地頭・若狭之助はこの犬を一刀の許に切り捨てたが、その愛犬の首頭が飛んだ先の藪に、若狭之助を呑もうと構えた大蛇がいたのであった。若狭之助は大蛇を退治すると、忠犬の遺骸を持ち帰り、丁寧に葬ったのが今に伝える犬石である。

因みに若狭氏の定紋は下り藤の中に犬の文字を入れてあったが、今の一族は犬が嫌いか、その由来を知らないのか、大の文字を入れた藤の紋としている。

峡南郷土研究会『峡南の伝説』(昭27)より要約

古関小学校の近くに、犬石は今もある。話は忠義な犬という話型の典型で、特に変わったところはない。しかし、その結果として同家が犬の字を入れた紋を使っていた、という点が突出している事例ではある。

そもそも「忠義な犬」の話が全国でたくさん語られる理由とは何か、この話が何を伝えようとしているのかというのも胡乱なのだが、紋の由来となっていたなどというなら、家の話という可能性も出てくる。本当に古関にそういう家があったのかどうかは不明だが。