餅食わず

福井県福井市

旧足羽郡社村のある家では、正月餅を食べない。昔、戦争の時落ち武者をかくまったが、欲にくらみ、敵の手に渡した。その武士が家人に、自分を売った報いとして正月もし餅を食べれば祟りがあると言い残したからである。それで家人は正月でも餅を食べなかった。後年、女中が不審を抱き、正月に餅を煮ると、鍋から白蛇が這い出て自在の上へ上がったという。(「南越民俗」第三号)

小黒丸城が新田義貞に攻められたのが大歳の晩から正月元旦にかけてだったので、村内大騒ぎで、雑煮を食べるどころではなかった。そのため、元旦は午前十寺を過ぎてからでないと雑煮を食べない。それを破った家は衰え他所へ行ったという。他村で食べるのは差し支えない。また、元旦に白い餅を煮ると鉤縄の上へ白蛇が下がるともいわれている。(『福井県の伝説』)

昔、足利氏の城があったといい、敵の新田氏の中黒の旗が鍋の蓋に似ているので、正月餅を煮ると鍋から蛇が這い出して自在鉤に這い上がるといい、正月餅を食べずに団子を食べるという。(「南越民俗」第三号)

『日本伝説大系6』(みずうみ書房)より

同稿から蛇が登場する類話を引いた。概ね黒丸町あたりの話のようだ。新田義貞に攻められたというか、この地(新田塚町)があの新田義貞の最期の地となったわけだが(そののち脇屋義助に攻められ、城は捨てられる)。