むかし、笹之沢に大変欲張りの婆さんと気だてのやさしい娘が暮らしていた。
娘ははた織りが上手で、毎日トンカラリトンカラリと織っていた。娘はまた、とても牛を可愛がっていた。
きょうも娘がはた織りしていると、どこからともなく一羽の真っ白い鳥がとんできて、娘のはたを織っている窓の外の小枝にとまったり、美しい声でさえずりはじめた。それはまるで金の鈴でもふるような美しい声だった。
小鳥の声にききほれていた娘は、はた糸が切れたのもわからなかった。
はたの疵に気がついた欲張り婆さんは、カンカンに怒って織りなおしを命じた。
娘は婆さんに命じられたとおりはたをほぐしたが、糸がもつれてどうすることもできなくなってしまった。
「こんどから気をつけますから許してください」
と頼んだがどうしても許してくれない。娘は、幾日もご飯も食べずに悲しんだ。
月の明るい晩、娘は家の前にたたずんで月を眺めながら、どうすれば許してもらえるかと思案していた。すると後ろから、
「もしもし」と声をかけるものがあった。だれかと思ってあたりを見まわしたがだれもいない。また声がした。よく見ると日ごろ可愛がっている牛が声をかけたのだ。
「なぜそんなに悲しんでいるのですか」
と牛がきくので、娘はわけを話した。すると牛は、
「それでは、わたしが気晴らしによいところへつれていってあげましょう」
と娘を背中にのせると、山の中の小さな池のところへやってきた。
池はさざ波一つなくきれいに澄んでいる。
「しばらく目を閉じててください」と言いながら牛は、静かに池の中へはいっていった。
こうして、娘は牛につれられて池の底の龍宮に行ったきり、二度と帰ってこなかった。
村人たちはこの池を「牛池」と呼んでいる。牛池は、いまでも月の明るい晩になると、池の底からトンカラリトンカラリと娘のはたを織る音がきこえてくるそうである。