牛池

新潟県十日町市

昔、笹之沢に欲張りの婆さんと優しい娘が住んでいた。娘は機織りが上手で、毎日トンカラリと織っており、また、とても牛を可愛がっていた。ところがある日、一羽の真っ白い鳥が窓から見え、美しい声でさえずった。娘はこれに聞き惚れ、はた糸が切れたことに気づかなかった。

はたの疵に気づいた欲張りの婆さんが怒り、織り直しを命じた。しかしほぐしたはたは糸がもつれてどうにもならなかった。娘は許して下さいと頼んだが、婆さんは許さず、娘は幾日もご飯も食べずに悲しんだ。

月の明るい晩、娘は途方に暮れて月を眺めていた。すると、どうしてそんなに悲しいのか、と声をかけるものがいる。娘があたりを見回すと、声の主はいつも可愛がっている牛だった。そして、娘がわけを話すと、牛は気晴らしに良いところに連れて行こう、と娘を背に乗せた。

こうして牛と娘は山の中の小さな池の畔にやって来て、そのままその池へ入ってしまった。池の底には竜宮があり、娘は帰って来なかったそうな。この池は牛池と呼ばれるようになり、今でも月の明るい晩には、娘の機を織る音が池の底から聞こえるという。

十日町市史編さん委員会
『十日町の昔ばなし』より要約

話そのものは『まんが日本昔ばなし』にも紹介されたりと、よく知られたものだと思うが、その牛池なり、関連する文物が笹之沢に何かあるのかというと不明。

ただし気になる点として、この土地周辺には、十二支表記で地区名とする例がまま見える、ということはある。「丑」地区は十日町駅のすぐ西側に使われているので、笹之沢のほうに丑はないと思うが、もしかしたら、とは思っておきたい。