柏崎の藤吉という船頭が小木のおべんと恋仲になった。おべんは毎夜たらいに乗って海を渡って藤吉に会いに行った。しかし、藤吉には妻子がおり、毎夜訪ねるおべんを疎んじた藤吉は、おべんが目印にしていた番神堂の灯明を消してしまった。
おべんは目標を失い、波に漂って水死してしまった。なきがらのたらいが柏崎の浜に打ち上げられ、おべんは不思議にも一匹の蛇と化していたという。(『柏崎伝説集』)
多く語られる筋は、柏崎の海に落ちる滝の下にお弁の亡骸が上がったので、滝を「お弁の滝・お弁が滝」と呼ぶようになった、という話。悲恋というところが強調され、多くの話の中でお弁が蛇体となるというケースは限られてくる。
ただし、西隣の大潟の方で語られた同様の話には「此女ノ腹背ニ蛇ノ鱗出生シテアリケリ」(『訂正越後頸城郡誌稿』)とあり、もとは蛇の話だった可能性もある。「お弁」という名前にもそれは表れているだろう。
この辺り周辺の話、また佐渡おけさ・佐渡情話との関係などはまたの機会に追う。今は、伊豆の「海を通う女」などの同系話から参照するために引いた。