庄屋の家には大きい主がいたという。茅葺屋根の人の上がらないところに隠れ棲んでいて、村に火事があったり、大水が出たりする前になると、家中をカタカタ、カタカタ地震のようにゆすった。そうすると「ああ、主が猛(たけ)たんが。また何かがあるぞ」と思ったものだった。
お婆さんが子どもの頃、家を作り直すことになり、その時は神官を呼んで、主に鎮守の沢の中にいっとき移ってくれるように頼んだ。そして、棟上げが終わったらまた神官を呼んで、家が出来たので戻ってくれと主に頼んでもらった。
すると、朝起きてみたらきれいに均された縁の下に、丸い穴が七つ開いていたという。お婆さんは子どもの時にその七つの穴を見たと言っていた。
お屋敷を守護する蛇神というのは、まま茅葺屋根の中を棲みかとしているとされるもので(実際蛇の寝床としてちょうどよかったという)、屋根を葺き替えるときにヌシの居どころがなくならないように半分づつ葺き替えた、などという話も聞く。
この種苧原の話は実は「蛇」とは一言も出てこないのだが、屋根を棲みかとしていて鎮守の沢に移るあたり蛇であろう。同種苧原には「じゃのへそ(蛇の臍)」なる宝物を持った庄屋の家もあったというが(「椀貸の池」)、関係はあるだろうか。
注目すべき点は、家のヌシといいながらも、村全体の異変で「猛る」ようで、土地一族の神の側面がよく見えるところだろうか。この庄屋の家は鎮守のすぐ近くにあり、原文語り口では「そこ(庄屋家)ね、鎮守様の沢の中とこう繋がってるから」ともある。
また、最後に家に戻った証に「七つの穴」を縁の下に表した、というところは大変不思議で興味を引かれる話である。単純に北辰信仰なのかもしれないが、そうであってもなくても面白い事例だろう。